たまたまレビュー#11 『ジェンダー・クライム』
たまたまレビューでは、書籍・漫画・映画・ドラマなどのレビューを思ったままに書いていきたいと思います。大体週末の午後に更新します。※GWはやや変則的。
今週の一冊
▼『ジェンダー・クライム』(天童荒太/文藝春秋BOOKS)
簡単なあらすじ
ある過去から出世の道をそれた刑事・鞍岡(くらおか)の管轄内で、裸で縛られた男性の遺体が発見された。遺体には「目には目を」のメッセージが残され、程なくして男性の息子が集団レイプ事件の加害者の一人であったことがわかる。逮捕された有名公立大学に通う19〜20歳の男子学生4人は、その後、全員が不起訴になっていた。
鞍岡は捜査一課の志波(しば)と組み事件を追い、行方がわからない被害者女性の兄を追うが……。
※以下、多少ネタバレしますが、本筋のネタバレには至りません。
「主人」とは誰か
天童荒太の代表作は『永遠の仔』(2004年)だが、著者は『ジェンダー・クライム』刊行にあたっての談話で、『永遠の仔』の中で「主人」呼びに違和感を持つ女性を作品に登場させたけれど、その点にインタビューで触れられることはまったくなかったと語っている。著者がそこにこだわったと、メディアの人々は気づかなかったということだろう。
「自分の主人は自分だから、私は夫を主人とは呼ばない」。当時もフェミニストたちはそうだったはずだけれど……と思ったが、もしかして当時は「フェミニストは男性嫌いだから結婚しない」と一般には思われていたのだろうか。もしくはフェミニストの主張が全然世の中に浸透していなかったから、誰もそれがフェミっぽい主張とは思わなかったとか……?(ありそう) 2004年といえば、ちょうどバックラッシュの頃。
作者はこの点に思い入れが強いようで、本作でも「主人」の話が出てくる。
主人公の鞍岡とコンビを組むことになる若手の志波(フルネームは志波倫吏・しばりんり)は、被害者の妻に事情を聞く鞍岡が彼女を「奥さん」と呼び、被害者を「ご主人」と呼ぶのを注意する。
「奥さん、と呼ぶのはどうなんでしょう。佐東さんで、いいじゃないですか」
「他人が、女性の配偶者を、ご主人、と呼ぶのは、侮辱になるということです。その女性は、配偶者の奴隷でも使用人でもない。その人の主人は、自分自身ですから」
ひとまわり近く年下の志波からこう言われた42歳の鞍岡は、一瞬あっけに取られるものの、言い直して聴取を続ける。
今確認し直してびっくりしたが、主人公の鞍岡は私よりも年下だった。しゃべり方とか考え方から50代後半の刑事を想像して読んでいた。42歳ってこんなにオッさん? でも確かに自分が子どもの頃は、42歳ってだいぶオッさん(オバさん)だったわ……。うーんでもやっぱり、今どきの40代ってもうちょっと若いんではと思っちゃう。まあ職業にもよるのかも!
話が脱線したが、こうやっていちいち鞍岡にジェンダーツッコミを入れる理屈っぽい志波は、ちょっと『ミステリという勿れ』(田村由美)の整くんっぽい。整くんをシュッとさせた感じ。