たまたまレビュー#30 最近見た映画や読んだ本

ドマーニ/被害者姫/太陽(ティダ)の運命/労組と弾圧/すべての、白いものたちの/片思い世界
小川たまか 2025.04.12
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たまたまレビューでは、書籍・漫画・映画・ドラマなどのレビューを思ったままに書いています。

大体週末の午後に更新します。

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 今回はまとめていくつか書きたいと思います。気になったものがあったら見てってください!

【目次】

(1)『ドマーニ』

(2)『被害者姫』

(3)『太陽(ティダ)の運命』

(4)『労組と弾圧』

(5)『すべての、白いものたちの』

(6)『片思い世界』

(1)映画好きはみんな好きでは? しっかりエンタメガッツリ社会派『ドマーニ』

 パオラ・コルッテレージ監督・主演。

 昨年出会った頼りになる記者の先輩が映画好きで、ちょくちょく映画情報を交換している。その先輩から「なんとしても行ってください」と言われて見てきました。一言で言ったら最高だった。近年見た映画の中でもかなり上位に入る傑作。テンポ良し、役者良し、テーマ良し。

 物語の舞台は戦後のローマ。デリアは3人の子どもを持つ母親で毎日忙しく働いているが、夫のイヴァーノは男尊女卑の染みついた最悪なモラハラDV男で、二言目には「俺は2回も戦争に行ったんだ」と言う。わがままで意地悪な義父の世話もあるし、下の男の子2人は父親に似て口と素行が悪い。近所の女友達は明るく優しいけれど、家の中でデリアが殴られているのを止めることはできない。希望は聡明な長女のみ。そんなある日、デリアに謎の手紙が届いて……。

 DVシーンもあり、ハラハラする場面も多いのだが、全体としてまったく暗いトーンでないのは監督・主演を務めたパオラ・コルッテレージがコメディエンヌだからなのだと思う。冒頭からデリアたち家族の朝の様子が歌に合わせて軽快に流れ、そこからもう118分間画面に釘付け。私はある場面で映画館なのに思わず声が出ちゃった。それぐらい没頭させる脚本のうまさがある。

 前編モノクロで、昔のイタリア映画をオマージュしていて、ストーリーはシンプル。しかしそこからの変化球がある。

 「見て良かった!」と思う映画なので、人に勧めたくなる気持ちがわかる。人におすすめしやすい映画NO.1かもしれない。というわけで私は自分の母に「ぜひ見に行って!」とおすすめしました。みなさんもぜひにね。一点だけ、デフォルメされているとはいえDVシーンがあるので注意。

▼予告動画では伊藤沙莉さんがナレーションを担当しているよ。

(2)あー、なるほどわかる……わかるぞ……の漫画『被害者姫』

『被害者姫 彼女は受動的攻撃をしている』(水谷緑/竹書房)。

 SNSで話題になっているのを目にして、ついつい購入。とはいえ被害者バッシングっぽい内容だったら嫌だなあ……と思っていたのだが、そういうわけでもなかった。

 タイトルにある「受動的攻撃」とは、はっきりと自分の主張を表明するわけではなく、沈黙や曖昧な表現で相手に察しを求め、配慮を引き出すこと。もともとはアメリカで生まれた概念で、軍隊などの組織で上司の部下に絶対に逆らえない部下たちが、仕事をわざとゆっくりやる……などの行為に「受動的行為」という名がつけられたのだそう。

 つまり、権力勾配における弱者のなけなしの対抗手段とも言えるため、一概に悪いとは言えない。良くも悪くも人間関係の中での手札のひとつ。男尊女卑の強い日本のような社会において、女の子が自己主張しづらい生育過程の中で「受動的攻撃」を身につけてしまうことも示唆されている。やりたいことを言っても認めてもらえない(「女の子だから地元の大学でいいでしょ」「女の子なんだからサッカーなんてやめときなさい」」など)環境で育った末に、自分の意志をストレートに示すのではなく、ため息や沈黙、既読スルー、体調不良などの方法で相手の配慮を引き出す方向に向かってしまう。

 『被害者姫』の主人公はこのやり方で会社の中では一定の地位まで上りつめるのだが、一方である人たちは去ってしまう。構造的に自分が弱者でない場所でも「被害者姫」になってしまう彼女は、それを相手から見透かされた結果、突き放される。

 主人公は見ていてイラっとする人物ではあるのだが、彼女にも生きづらさが相当あるのだなと理解できるところが上手い。結末はややあっさりしていて、もうちょっと読みたいという気持ちになった(Kindleで読んでいるとラストまであとどのぐらいか把握しづらいのであれってなることあるよね)。

(3)政治とは沖縄県知事のこと 映画『太陽(ティダ)の運命』

 琉球放送創立70周年記念作品。佐古忠彦監督。那覇の桜坂劇場、渋谷のユーロスペースで公開中、全国で順次上映。

 「太陽(ティダ)」はリーダーを意味する。1972年の本土復帰から、沖縄県では8人が県知事を務めた。それぞれに保守・革新として立場は違えど、押し付けられた米軍基地に命を賭けて向き合わざるを得なかったのは同じ。映画の中では特に、第4代知事・大田昌秀(1990~98年)と第7代・翁長雄志(2014~18年)の人生と運命を、多くの証言を元に辿る。

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