たまたまな日々・ここ最近考えていること

伊藤詩織さんの映画の件だけど、そんな大したことは書いていません
小川たまか 2025.02.14
読者限定

 そういえば今日はバレンタインデー。

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 夫にはあたたまる入浴剤を贈りました。

 最近ずっと考えているのが伊藤詩織さんの映画『Black Box Diaries』について。私自身、詩織さんと面識があるし(彼女の裁判はずっと傍聴して応援してきた)、共通の友人も多いし、東京の記者の友人・知人たちはほぼ詩織さんを知っている人ばかりだし、この間の出来事についてぐったりしている。

 今日になって、望月衣塑子さんが詩織さんから提訴されたニュースも流れてきたし。

 海外では作品内での無断録音や未許諾問題があまり知られていないようで、現状日本で公開できていない理由が「日本の闇」「やっぱり女性差別の国だし性暴力の問題はタブーだから」と思われているらしい。フランスでは日本での公開を求める署名が始まったと詩織さんのFacebook投稿にも書いてあった。

 自分の頭の中の整理のためにも、この騒動をよく知らんと言う人のためにも、経緯をまとめてみようと思います。

 現在の状況を一言で説明すると、

「未許諾の部分について修正or許諾を取るまで公開しないでほしい」元弁護団

vs

「見て判断してほしい」詩織さん

 という対決です。ホコタテみたい。

 私としては、日本の女性差別は根深いものの、この映画が日本で公開されていない理由がそれかのように語られてしまうのは違うだろと思っています。ただ、国内の人が「見ないとわからないから見たいよね……」という気持ちもとてもわかる。私は映画を見ることができたので、その感想も後の方にちょっとだけ書きます。

時系列まとめ

■2023年

12月 毎年1月に行われるサンダンス映画祭で『Black Box Diaries』が公開されることが決まる。

■2024年

3月 「ニューヨーク近代美術館MoMAを皮切りに、Black Box Diariesが世界中の映画祭で各地プレミアが行われる」ことを詩織さんがFacebookで告知。

7月 日本でメディア向け上映会が行われ、詩織さん側の代理人弁護士らがここで初めて映画を確認。動画や音声の無断撮影・録音を知る。

10月22日 詩織さん側の元代理人・佃克彦弁護士、西廣陽子弁護士、加城千波弁護らが東京の司法記者クラブで記者会見を開き、問題を訴える。※加城弁護士はvs山口敬之氏訴訟、佃弁護士はvs杉田水脈氏訴訟、西廣弁護士は両訴訟の代理人。

問題とされたのは、(1)ホテルの防犯カメラ映像(未許諾)(2)捜査官Aの音声(無断撮影・録音/未許諾)、(3)タクシー運転手(無断撮影かは不明/未許諾)(4)西廣弁護士との電話(無断録音)。

詩織さん側は、東京新聞の取材に「いくつかの点で会見内容は重大な点が事実に相違しております」などと反論。

11月 アメリカで公開が始まる。

12月17日 詩織さん側の代理人に就任した神原元弁護士・師岡康子弁護士が、10月22日の会見について「不正確な事実が含まれ、伊藤氏への名誉毀損の恐れがあり、本件映画の日本での上映実現を妨げる悪影響が懸念されます」とコメントを出す。

■2025年

1月24日 『Black Box Diaries』がアカデミー賞・長編ドキュメンタリーにノミネート決定。

1月25日 ハフポスト日本版のインタビューで詩織さんが無断撮影などの問題について一定の説明を行う(記事の初掲載は2024年12月)。

2月14日 詩織さんが東京新聞1月14日の記事を書いた東京新聞・望月衣塑子記者を名誉毀損で提訴。※東京新聞ではなく、望月記者個人に対する訴訟提起。

 先週の時点では2月12日に佃弁護士らが再度記者会見を開くことがFCCJ(外国人記者クラブ)のサイトで発表されていたのだが、これは延期になったようで、2月20日に、佃・西廣・角田由紀子弁護士と、詩織さん側、両者の記者会見が行われることになったようだ。

 アカデミー賞の発表は3月2日。

東京新聞記事について

 1月14日の東京新聞記事の時点で、取材を申し込んだ望月記者に対して神原元弁護士・師岡康子弁護士は「悪質な人格攻撃を続ける相手方に対する回答義務は存在しないと思量しており、今後とも、その理解を前提に行動してください」とコメントしていて、ガチンコだな……という印象はあった。とはいえ、これで訴えられるのは望月さん気の毒だなというのが現時点での印象。

 修正前と修正後の記事を読み比べてみたが、一番大きな変更は以下だった。

(修正前)

映像に映っている複数の女性が「許諾していない」と話している。

(修正後)

自身の性被害を語った女性からは許諾を得ていたが、映像に映ったり、発言したりしている女性らが「許諾していない」と話している。

 修正前記事の本文とタイトルでは性被害を語った女性に対しての許諾がなかったかのように読めるため、修正ということのよう。

 ただ、ジャーナリストの伊藤詩織さん(35)が監督を務め、自身の性被害を調査したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」の中で、日本の女性記者たちが性被害などを語った非公開の集会の映像が、一部の発言者の許諾がないまま使われていたことが分かった。該当部分の削除を要求した女性は、昨年末に伊藤さんから「最新バージョンでは削除する」と伝えられた。だが、1月上旬から米パラマウントプラス(有料購読者・約7200万人)で公開された映画を確認すると、削除されていなかった。という根本的な部分は変更がない(太字部分は筆者による)。

 集会の参加者である女性から削除依頼があった点は事実であると思われる。許諾があったならこの段階で削除依頼が来ることは考えられない。

 映画を見たが、この集会は「薔薇棘」というメディア関係の女性による勉強会で、著名な方も3人ほど映っていたので、後ろ姿や横顔ではあったが私でも「あ、○○さんだ」とすぐにわかった。他の参加者も、知り合いならわかるだろうなという映り方だった。著名な人たちに対しては、おそらく許諾があるのだろう。※ちなみに『Black Box Diaries』には望月記者自身も出演している。

 自身の性被害を語った女性にも許諾を取ったということなのだが、そのほかにもややセンシティブな内容を話している女性がいたと記憶している。彼女が削除をお願いしているのかもしれない。

 個人的な感想としては、確かに「性被害を語った女性の映像なのかどうか」によって印象は変わるけれども、「誤報」と言えるかどうかは難しいんじゃないかと感じる。ましてや提訴は本当に驚いた。どうしてこうなった。

そもそもの問題

 また、東京新聞が記事を訂正したことと、最初の記者会見で問題提起された内容は関係がないので、こちらについての議論は残っている。

 私の疑問は、味方をしてくれた人たちのことを無断録音したり、未許諾で公開する必要が果たしてあったのか、そしてそれは本当に「ジャーナリズム」なのかという点。被害当事者である詩織さんに対して冷たい態度の警察官(男女)の音声まではまだわかる。でもそれ以外の、捜査官Aやタクシー運転手(←この人は顔もしっかり映っている)や、ましてや弁護士さんたちは……。なんで?って思う。

 詩織さんが海外のインタビューでこの問題についてどの程度語っているのかはわからないのだが、国内で一番しっかり出ているのはハフポストの記事ではないだろうか。一読推奨。

 ただ、このハフポ内での説明を読んでも私はあまり納得できない部分が多くて、その理由を今回は全部は書かないけれど、一つ挙げるとすると、

 「ホテル側と何度も交渉しましたが、映像の使用許可を得ることはできませんでした。そのため、山口敬之氏の姿やホテルの内外装、タクシーの形状をCGで加工し、新しい映像を作成しました。」のところ。

 許可が取れていないものについて、加工すればいいものなのか?という疑問。ホテルの内外装を加工したというのも謎な話で、これ以外の場面でこのホテルがシェラトン都ホテルであることは観客から見てガッツリわかるように作品が作られているので、加工にどういう意味があるのか不思議に感じた。

 あと、「WEB世界」でも詩織さんの手記が掲載されており、冒頭で編集部が「映画『Black Box Diaries』をめぐっては、昨年10月、伊藤氏の元代理人弁護士らが記者会見を開き、作品内での監視カメラ映像、警察官や代理人の音声使用などに関して問題があると指摘している。」と書いているので、それなら問題について説明があるのだろうと思って読み進めるとこれがまったくない。とにかく詩織さんが「何より、映画を観てから判断してほしい。」と思っていることはわかるのだが、世界編集部は本当に今この原稿内容で良かったのだろうか……と疑問を持つ。

※沖縄タイムス記事は有料

 ※以下の映画の感想については作品を見るまで読みたくないという人もいると思うので、そういう方は次の見出し「ところで」まで飛んでください。

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