たまたまな日々・家でいろいろ見た日

3月20日/『標的の島』/『沖縄スパイ戦史』/『デッドロック』など
小川たまか 2024.03.21
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 風の強い日。

***

3月20日

 空は明るいのに雨が降っていて風が轟々という不思議な日で、なんだかお腹も痛いので1日外出しませんでした。春一番なのかな? 東京の下北沢では強風で大きな布?か何かが飛ばされて駅前が通行止めになっていたっていうのをネットで見た。

 ごはんを食べて、眠る猫の横で映像を見て……っていう1日でした。

それでは何を見たのかについて

※以下、戦争の記述があります。

▼映画『標的の島 風(かじ)かたか』予告編

 アマプラのレンタルで見た。三上智恵監督の『標的の島』。2016年より前の沖縄、高江、辺野古、石垣島、宮古島の住民運動について。東京のメディアではほとんど流れることのない、沖縄での抵抗。

 宮古島や石垣島の代表が署名を持って防衛省へ行き、防衛省の職員に渡す場面がある。沖縄選出の国会議員も同席する。宮古島の住民が、基地の建設予定地は、住民の飲料水になっている地下水がある場所であることを知っていたのか、そういう大切な場所であることを知っていたのかと職員に問う。職員は「えーと、地下水……、なんですか?」と問い返し、「地下水で生きている島ということはご存知だったのですか?防衛省は」と聞き直されても、はぐらかす。「少なくとも基礎調査やってますので、当然……」などと言っているけれど、それならなぜそこで良いと思ったのかの答えにはなっていない。

 聞いていた国会議員が、職員を「あんたには全く誠意がない」と断じる。先の大戦で、日本軍は沖縄の住民を守らなかった、軍隊は軍隊しか守らなかった、それが沖縄戦の実相であり、その過去があるから沖縄では「また捨て石にされるのでではないか」という強い疑いがある。でもそういった訴えが職員の心に響いている様子はない。薄ら笑いと無表情の職員2人(3〜40代ぐらいの男性と、その部下らしき若い女性)が憎らしく思えるが、本当に悪いのは彼らではなくて、全くなんの考えも責任も決定権も持っていない彼らをフロントに立たせて知らんふりしている国である。

 ラストシーンで、アーティストの七尾旅人さんが「兵士A君の歌」を歌う。これから何年後かにいるかもしれない、戦死する日本の若者を想った歌だ。その歌に合わせて、高江や辺野古で住民たちの前に立ちはだかる警察や自衛隊や防衛庁の青年たちが映し出される。無表情で幼い顔をした彼ら。

 これは左派の映画だと思われがちだけれど、今ここにあるのは右派左派の対立では全くないし、住民と自衛隊の対立でもない。沖縄と「本土」の対立でもない。これは戦争になったら殺される側の庶民と、戦争を指揮する側の話だ。

 数年前に、知人だったある人が「沖縄の基地反対運動で住民から罵倒される自衛隊の若者が可哀想だ、彼らが悪いわけじゃないのに」というような趣旨のことを言った。住民運動は感情的だというニュアンスだった。私はそのときうまく言い返せなかったけれど、今だったら「それは私たちが沖縄戦がどういうものだったかちゃんと学んでいないからそう思うのでは?」「戦争になったら真っ先に殺されるのは自衛隊の若者で、自衛隊の若者が可哀想だというなら、戦争に進もうとしている国に対して何か思うべきではないのか」と言うと思う。目先の構図に惑わされている。

▼映画『沖縄スパイ戦史』予告編

 こちらもアマプラのレンタルで見た。三上智恵さんと大矢英代さんが共同で監督。沖縄の地上戦では、陸軍中野学校で軍隊教育を受けた青年将校たちが、沖縄の10代の少年たちを率いて闘った。少年たちは「本土」から来た将校たちに憧れて喜んで兵士になる者もいたが、闘いの中で自爆攻撃に使われたり、負傷がひどかったり破傷風になったりして使い物にならないと判断されると殺されていった。

 また、石垣島や波照間島で語り継がれるのは戦争マラリアの被害。戦争中に先島諸島で亡くなった人の多くはマラリアの罹患が原因で、これは日本軍から「避難」を強制されて、それまで避けられてきたマラリア地帯に行くことを余儀なくされたからだった。先島諸島に米軍は上陸せず、住民の疎開は、日本軍のための食糧確保が必要だったからではないかと言われている。

 特に波照間島では住民の3分の1がマラリアで亡くなった。山下虎雄という偽名で学校教員になった日本軍将校が、波照間島の住民を、マラリア地帯である西表島に強制的に疎開させた。波照間島に残る碑には、山下虎雄を許しはしても、忘れることは決してないと書かれている。

 映画の中では、戦後、山下虎雄に電話取材したカセットテープを研究者の人が大矢監督に見せてくれる場面がある。滋賀県の工場の経営者となっていた山下虎雄は屈託なくインタビューに答え、強制的に避難させたなんてことはないと語る。住民の言っていることとだいぶ違いますねと問うインタビュアーに、はははと快活に笑う。神はいるのか……という気持ちになる。

 私はだいぶ前から石垣島や八重山諸島を訪ねるのが好きだったけれど、戦争マラリアについて知ったのはここ数年……。石垣島にあるバンナ山にはマラリアの療養所があった(だから心霊スポットでもある)と聞いたことはあったけれど、その背景まで知ったのはずっと後だった。

石垣島の「<a href="https://www.pref.okinawa.jp/yaeyama-peace-museum/toukannituite/index.html">八重山平和祈念館</a>」

石垣島の「八重山平和祈念館

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