たまたまレビュー#10 『コール・ジェーン』
たまたまレビューでは、書籍・漫画・映画・ドラマなどのレビューを思ったままに書いていきたいと思います。大体週末の午後に更新します。
今週の映画
▼『コール・ジェーン-女性たちの秘密の電話』(フィリス・ナジー監督)
▼映画『コール・ジェーン』公式サイト
簡単なあらすじ
1960年代のアメリカ。弁護士の夫、15歳の娘と暮らすジョイは妊娠中に心臓病が悪化し、出産すれば命に関わると告げられる。しかし当時のアメリカでは少数の例外を除いて中絶が違法。主治医が50%の確率で命を落とすと説明するにも関わらず、男性ばかりの医師会はあっさりと中絶は認めないと判断する。行き場を失ったジョイは、バス停に貼られている張り紙を見つける。そこには「妊娠?助けが必要?ジェーンに電話を」とだけ書かれていた。
※以下、ネタバレを含みます。
最初の30分は少ししんどい
約2時間の映画だが、私は最初の30分は若干しんどかった。
ジョイは裕福な家庭の専業主婦。夫婦仲はとても良く、思春期の娘とのコミュニケーションも問題ない。けれど彼女は夫・ウィルに対してほんの少しだけ遠慮がち。弁護士のウィルが準備書面のアドバイスを求める場面で、二人は大学で出会い、その頃の彼女は成績優秀だったと伺わせるやり取りがある。だからウィルはジョイを信頼しているのだけれど、ジョイはどこか不安げである。
妊娠中に具合が悪くても、すぐには病院へ行かない。まるで誰かから何か言われることを怖がるように。
娘と夕飯を支度している途中で、ついにジョイは倒れてしまう。病院へ運ばれ、主治医から出産すれば命の危険があると告げられる。キリスト教を信仰し、保守的な思想の持ち主である夫婦にとって、そのとき中絶は一切頭になかった。
中絶が違法な当時のアメリカではあるが、医師たちがやむを得ないと判断した場合のみ、堕胎手術が許される。医師たちの会議に夫婦で訪れたジョイは手作りのクッキーを皿に乗せ、笑って挨拶する。けれどジョイ以外全員が男性のその会議で、ある医師は「この病院では過去10年間に1度しか中絶手術を行ったことがない」と、まるで誇らしいことのように言う。
「母体の危険は?」と聞くジョイを無視して、彼女の中絶を認めない決定がなされる。ジョイはクッキーの皿を持って、夫より先に退出する。弁護士のウィルは、ここで一言も言葉を発さない。
この後ジョイは、違法な中絶手術を行っているビルの一室を訪れるが、怪しげな雰囲気に耐えきれず逃げ出してしまう。その街は治安が悪く、キャットコールを浴びせられる中で駆け寄ったバス停で、「ジェーンに電話を」の張り紙を見つける。
電話をすると、グウェンという黒人の女性が車で迎えに来て、場所がわからないように目隠しをして連れて行かれる。そこでジョイは600ドルと引き換えに男性医師ディーンから中絶手術を受ける。
太ももへの注射や膣への器具挿入など、中絶手術の描写がそれなりに具体的で私には結構しんどかった。婦人科検診も苦手なので……(得意な人はいないか)。
この辺りまでが、最初の30分間。
けれどここからは一転、ハラハラするけどエンパワメントされる描写が続く。