たまたまな日々・ジャニーズ事務所の会見
9月7日、原稿を書いてジャニーズ事務所の会見を見た日。
14時までに原稿を1本終わらせる。14時から会見を見なければいけなかったから。メディア関係の人が数日前から今日がXデーだとザワザワしていて、やっぱザワザワが少ない京都にいて良かったなあと思う。
私は性暴力を取材するライターだが、めちゃくちゃ注目度の高い事件(ジャニーズとか自衛隊とか)については縁がない限り自分から首を突っ込みたい気持ちはあまりなくて、その理由の一つは、関心を持ってやってくれる記者さんがたくさんいる事件に私のようなフリーがわざわざ行ってもあんまり意味がないかなあと思うから。
目を背けてきた面倒臭いこと
ただ、これだけ大きな問題だと、5年後の法改正や今後の性被害者への支援や性教育の議論にも影響を与えるだろうから、その点で見ておかなければならないと思う。でもなんというかしんどい。このジャニーズ問題については、関わっている人の人数が多く構造の問題への指摘もありそして複雑すぎて、これまで日本社会が視聴率(=人気=金)を稼ぐことばかりに価値を置き、棚上げにして見ないようにしてきた「面倒臭いこと」が一気に噴出した感じがある。こんなことの対応の仕方を、誰も知らないのだと思う。
「面倒臭いこと」とは、すなわち人権の問題。
社会的に弱い立場に置かれる子どもの人権。
そして中でも性被害については、「恥」であり「弱者の象徴」であり、忌避され隠されてきた。被害当事者をケアやサポートをする人に対しても尊重がなかった。だから対応の仕方を誰も知らないし、いわゆる「勝ち組」の人たちは、まさか自分がその告発の直撃を受けるとは思わなかっただろう。これまではずっと、「勝ち組」の人ほどそれを見なくてすんできたのだから。別の世界の出来事だと思っていたのだから。
テレビ番組の中で「報道」と「バラエティ」がまったく違うルールで仕切られているように、「被害」「差別」「告発」などという言葉で表される事象について、エンタメの世界の人たちはまったく扱い慣れていないのだと感じた。
それはある意味で仕方のないことで、日本の社会はこれまでそこに見えない線を引いてきた。社会の中で生き残るのであれば「告発」なんてしてはいけなくて、その業界のルールに従順に沿わなければならないのが当然だった。
小さな告発があっても、ことを荒立てない強い力学が働いて、誰が誰を黙らせたかわからないぐらいの自然さで「ないこと」になってきた。勝ち残れるのは、告発をしない人、組織や業界を絶対に裏切らない人だけだった。被害を「克服」するために精神論がのさばった。
成功者は「被害者」を忌避する
記者会見でジャニーさんのお気に入りになれば特権が得られたのではないかといった趣旨の質問に、イノッチや東山さんや藤島前社長は、どれだけ少年たちがレッスンを頑張っているかとか、センターになるのは頑張りを積み重ねた人なのだとか、そういうことを語ろうとした。話がずれていると思った。
彼らが語ろうとしたことは一面では事実であり、頑張りが報われてデビューして成功していった人もいるのだろうと思う。それは美しい物語。「愛は地球を救う」的な。けれども、「頑張れば報われる」だけで表せない事実も社会の中にはあるでしょう。
会見を見て感じたことは、やはり今の社会で成功した人は「頑張れば報われる」を強く信じているし、その信念と矛盾する考え方を忌避してしまうんだなということだった。頑張っていても、誰でも、突然のアクシデントに見舞われることがある。そのまま再起不能に陥ることがある。そちらの面の真実は、成功した人ほどこわいものなのだろうと思った。日本社会には確かに被害者嫌悪、被害者忌避がある。「そっち側」に行ったら負けなのだという忌避感が。
だから被害者にはセカンドレイプがつきまとうし、成功者からしたら、告発者は「努力しなかった人」や「嘘つき」でなければ困る。
「頑張れば報われる」社会と、「頑張っても報われない」社会は同時に存在する。前者の信念で生きてきた人が後者に目を向けざるを得ないタイミングが来たのだとしたら、これをきっかけに社会は変わるかもしれない。日本社会は少し成熟に向かうかもしれない。
「被害者は恥ずべき存在ではない」
会見の中で、NHKの信藤(のぶとう)さんや、朝日新聞の大久保さんなど、性暴力をずっと取材してきた記者さんの質問があるとホッとした気持ちになった。
信藤さんの質問は、2時間42分頃。
以下は、2時間44分頃からの質問。
「誰もが知る著名な方の被害が出てこない。もちろん強要されるべきではないことは大前提で、センシティブな話だということは重々理解しております。ただ、性暴力というのは悪いのは加害者であって、本来被害者は恥ずべきではないはずです。社会の偏見ということもあると思うのですが、組織の中で言い出しにくい空気というのはあるのではないでしょうか。被害を受けてなお活躍されている人がいるという前提でケアというものも必要なのではないかと思いますが、どうお考えでしょうか」
ジャニーズ事務所の人々の前で、記者会見を見ている多くの人の前で「本来被害者は恥ずべきではない」「社会の偏見」ということを言ってくれて良かった。
どれだけ、どうやって
サバイバーのお友達のひとりが、「性暴力の報道が巷に溢れ返っていて疲弊している」とポストしていて、そうだなあと思う。彼女のように疲弊しているサバイバーが多くいると思う。彼女ら、彼らのことを思う。