【2021年更新版】「スレスレ痴漢法」が特集された雑誌『月刊ドリブ』を読んでみた。

痴漢行為を注意されて逃走、追いかけてきた男性を一時重体にさせて元警視庁SPの裁判の様子についても。
小川たまか 2021.01.17
読者限定

2019年12月1日から、noteで有料公開していた記事です。noteからの移転にあたってこちらに転載&全文無料公開します。少し加筆&修正しています。

最後のところに、メール登録してくれた人だけ読める部分がありまして、そちらでは最近傍聴した裁判について書いています。痴漢行為を注意されて追いかけられた元警視庁SPの男(2007年にも痴漢で逮捕歴あり)が、駅の階段で男性を突き飛ばし一時重体の大けがを負わせた事件の裁判が先日(2021年1月某日)結審しました。痴漢については起訴されなかったらしく傷害のみの裁判となっており、男の弁護人は無罪を主張しています。

◆◆◆ここから、2019年12月1日の記事です◆◆◆

 ということで今回は! 「月刊ドリブ」について紹介してみたいと思います。

 「月刊ドリブ」は1982年創刊。その後1997年に休刊となったようですが、こんな雑誌があったことは全然知らなかった。牧野雅子さんの『痴漢とはなにか』(エトセトラブックス)を読んで初めて知りました。>牧野先生へのインタビューも面白いのでぜひ。

 『痴漢とはなにか』の中では、70年代から90年代にかけてのメディア(週刊誌や新聞)がいかに痴漢を娯楽として消費してきたのかがこれでもかというほど紹介されてます。そのすさまじさに、ページをめくるごとに驚きます。

なんといっても、チカン線のシニセは中央線。きのうや今日に始まったラッシュじゃないから、チカンも筋金入り。射精までバッチリやってくれるが、スカートにザーメンをひっかけて女の子を泣かすようなことはしない。ちゃんとスカートをまくり上げ、中に噴射してくれる。スカートのクリーニング代だけでも助かるというわけだ。(週刊プレイボーイ1975年4月29日号「春本番”チカンですよ~”首都圏<通勤電車>各線別チカンカラー!」)

 は? まじかよ? みたいなこういう例が何十も列挙されているので、一読後、「スレスレ痴漢法」を特集した雑誌「月刊ドリブ」だけが印象に残ったということは特にありませんでした。

 しかし2019年11月23日、牧野先生と田房永子さんの新刊記念トークイベントで。我聞く、「月刊ドリブ」の話。

 会場において、イラスト付き誌面を見たインパクトは大きかった。

 この雑誌の編集長は、嵐山光三郎

 『痴漢とはなにか』の版元、エトセトラブックスでは「We Love 田嶋陽子!」を出したばかり。

 この企画のために田嶋先生の過去の討論番組をあらためてチェックしたエトセトラブックスの松尾さんは「田嶋先生に向かって誰よりも激高していたのが嵐山光三郎だった。すごい目で睨みつけて青筋を立てて怖かった。痴漢を特集したドリブの編集長が彼だったことでわたしの中で『つながった』」と語ってらした。

 編集長だけではない。表紙コピー・巻頭コラムが糸井重里、篠山紀信がインタビューページの撮影を担当、さらに痴漢法特集のイラストや文章は南伸坊渡辺和博(一時期、いいともなどにも出演していた有名編集者/故人)するなど、当時の気鋭クリエイターが集まってつくった雑誌だった……ぽい。版元は青人社。

 糸井さんか……。

糸井 重里
@itoi_shigesato
そういえば、何年か前に見た「痴漢は犯罪です」っていうポスター、いまもあるかなぁ。「えっ!そうだったのか?!」っていう痴漢もいるってことなのかな?
2016/01/25 17:39
167Retweet 179Likes

 糸井さんか~……。

 俄然、気になる……。ですので、買ってみました。

男の本音誌、「月刊ドリブ」! 

 「ここまでならつかまらないスレスレ痴漢特集法」!! クレジットのところに 「痴漢実技 渡辺和博氏」「逮捕実技 南伸坊氏」と書いてあって、これは彼らが実際に電車に乗って、「痴漢して捕まるサラリーマン」「痴漢を逮捕する警官」を演じてるからです。

 月刊ドリブのクレジット。エディターインチーフに「祐乗坊英昭」ってあって、嵐山光三郎じゃないじゃん!と思ったら、嵐山さんのご本名だった。。。

 以下では、痴漢特集の内容を紹介しています。結論をひとことで言うとミソジニーすごい。。。この特集から読み取れるのは「男のスケベ心」じゃないです、女性嫌悪です。

■快適通勤電車特集 ここまでならつかまらないスレスレ痴漢法

 全部で5ページ。最初の3ページで繰り広げられるノウハウ的なものは、「美人をさわるのがコツ」「痴漢電車はどの電車であるか」「感謝の気持ちでさわること」など、見出しだけですでにキツイのですが、本文でも冒頭からめくるめくミソジニーを連発。 

どんなタイプの女が痴漢をされると騒ぐか。これはブスに多い。
かといっていい女ぶっている女はただのブスよりもっと始末が悪い。
年増ホステなんつーのも騒ぎます。「私は売物じゃない」なんて思っている。

 女に触りたいけれど女が憎いことがヒシヒシと伝わってくる。※「ホステ」は原文ママ。ホステスの略だと思われます。

 どんな女性を狙うのがコツか、どんな風に触ればいいか指南したあと、ご丁寧に捕まったあとにどうすれば良いかも。

ま、おおよその場合、公安室に行ってお説教をされ、1万円程度の罰金で済むそうだ。このお説教の段階でつっぱっちゃうとソン。うそをついても駄目。女性の訴えの方が強力で、被害者の方がいつだって有利なのだから。

 え、実際に痴漢しておきながら「女性の訴えの方が強力で、被害者の方がいつだって有利」とか、なんで「女はいいよな」みたいに語ってるのか?? 

 「痴漢冤罪」が社会問題になるのは2000年代〜なので、この頃はこうやって捕まっても大したことないっすよ、みたいなノリだったのかもしれない。

 このように楽しげに痴漢行為を扱っていたメディアが2000年を境に「痴漢の!!冤罪は!!深刻な社会!!問題!!です!!」と方向性を変える様子は『痴漢とはなにか』にとっても詳しく書かれていますのでぜひ。

要するに「すみません、つい出来心で」「ちょっと好みのタイプだったもので」とか、ペコペコ頭を下げ、上を言葉が通り過ぎるのを待ち、罰金を払うなり、深々とお詫びをするなりして退散するしかない。公安官も、そんなに痴漢にばかりかかわっているわけにもいかないから神妙にしていれば何とかなるはず。

 こんなこと書かれたら、「チャンスがあったらやっとくか」「リスクは大きくなさそうだ」「反省してるフリすればいいのか」と思う人がいてもおかしくない。

とくに「痴漢された」と大騒ぎするような女は自尊心が強いから、そこをくすぐってあげるのがいちばん。

 出たよ、女の自尊心叩き……。

痴漢するならば、いい男になるものひとつの手だ。見てすぐ分かるいい男。いい男にさわられたら女だってうれしいのだ。

 「※ただしイケメンに限る」って被害妄想はこの時代からあったんですね。

 次は、「スレスレ痴漢法とは何か?」という文章。読んでみると、記事を書いているのが渡辺氏なのだが、クレジットは「指導=渡辺和博」となっていて、なにかのカモフラージュなのかこの時代のユーモアなのかよくわからない。

 彼はイラストと文章で自らの痴漢経験を語ってます。

 「さわらしてくれた」とか「お尻が『さわってほしい』と語っていました」とか、2019年の現代では皆さんご存知、性犯罪者特有の「認知の歪み」じゃん……。

 下北沢→渋谷には本物の痴漢の方がいてオカシカッた。
 そのオジサンはフツーのサラリーマンみたいだったけど、モロに下の方からしていて勇気があるとゆうか、僕なんかは一日かぎりのウソ痴漢だけど、そのオジサンは女の子に"ジロッ"とニラマレても平然としていて恐い人だった。

 いや、触っておいて「一日かぎりのウソ痴漢」とか、お前は何を言っているのか。あと痴漢を発見して助けないんですね。 

 あと、「女の子に”ジロッ”と睨まれた」って表現。まるで女が品のない行動をしているかのように語るけど、女は必死の抵抗をしているだけなのではないのか。女は抵抗するときでも女らしくしないといけないんですかね。。てゆうか助けろ。

 そして渡辺氏の記事の下の囲みが「痴漢させてくれる女 くれない女 タレント分布表」。

 もちろん想像で書いているのでしょうが、これ本当に、人権侵害もいいところ。モザイク部分については女性タレントや歌手、女優さんの名前が載ってます。

 結局、「男の欲望(笑)」を受け入れてくれる女かどうかという基準で格付けしている。この特集の最初から最後まで一貫しているのは、「痴漢させてくれる女=美人、いい女」、「させてくれない女=ブス、生意気な女」である。

 言いなりになる女が好き。主体性を持っている女は嫌い。その価値観がはっきりわかる。

 特集の最後は南伸坊の「結論的にいって痴漢というのはハンザイとして地味であります」という文章とイラスト。

小生が思うのに、痴漢というのは極めて、相手というものを意識した、遠慮深い犯罪であって、電車の中でいきなり挿入のようなことをしたりはしない、少しずつ、少しずつ、了解点をさぐりながら、徐々に、許しを請うという形態でされるものなのである。これはもう、殆ど「お仕事」と変わりがないのであって、

 性犯罪加害者の心理を研究する人は、この時代の雑誌を調査したほうが良いと思う。加害者の観点が赤裸々に綴られているから。

どの時点で被害者が被害者意識というものを、持つにいたるのかというあたりが実にモコでアイマイなのである。この近辺にも、痴漢という犯罪の面白さというものがありそうで、

 「痴漢OK娘」を心から信じている人の文章っぽい。

小生の恩師が卒業して社会人になった女生徒に、知らずに痴漢行為をアレしてしまったオオアワテなんかをしてしまったという話を聞いて、ある種のカンドーをしてしまった。

 これが「昭和ののどかな時代」なのでしょうか。

 さて、南伸坊が、痴漢を「殆ど『お仕事』」と表現しているのは、2つの意味でとても興味深い。

 1つは、「1日◯人」とノルマを決めて、スケジュール帳に人数を記しながら痴漢をする加害者が実際にいるから。

 もう1つは、この特集が「ストレス解消法」のようなノリで作られているから。特集のタイトルは「快適通勤電車特集」である。大事なお仕事に行く男様が、少しでも快適に通勤するために痴漢を楽しむ。何が悪い。

 ストレス解消または退屈な通勤時間をしのぐために痴漢をするのに、拒む女は生意気だ。ブスだ。邪魔だ――。この特集では、痴漢を楽しむのと同じぐらいの熱量で、痴漢を嫌がる女性がバッシングされている。

 月刊ドリブが発売された1982年といえば、男女雇用機会均等法の制定よりも3年前。会社というのは男が働く場所で、「社会」というのもだいたい男の場所だった(だからいまだに「女性の社会進出」などと表現されるわけで)。

 そんな時代背景と合わせて考えると、もしかして痴漢って、女性を男社会から排除するための術のひとつなのではないだろうかなどと思えてくる。痴漢を嫌がる女にブスや生意気というレッテルを貼れば、女は自己主張しづらくなる。自尊心を保ちづらくなる。自己主張しない女、自尊心の低い女、男の言いなりになる女だけに、男は男社会の門を開ける。

 どの女がOKかを「痴漢」への対応で図る。「痴漢」は男社会の門番である男たちの「お仕事」なのではないか。通勤電車では痴漢、会社内ではセクハラで。おえ〜。

 繰り返しになるけれど、「痴漢スレスレ特集」はエロくない。過激な性描写があるわけではない。ただただ、痴漢行為を笑い飛ばし、痴漢させない女を蹴り飛ばしている。これは女の悪口を言い、女をバカにしてストレス解消したいための誌面である。

 この次のページからは「ラクラク通勤法」特集。電車の中に布団を持ち込み、パジャマを着た南伸坊がそこで寝たり着替えたりしてます。つい最近、YouTuberが渋谷の交差点にベッドを持ち込んで道路交通法違反で書類送検されたのを思い出しました。そのあたりはやること変わらないんだな。

 月刊ドリブ、他ページも3ページに1回は強烈に女性蔑視でミソジニー。悪い意味で感動するので、また別記事でまとめたいと思います。

◆◆◆「スレスレ痴漢法」が特集された雑誌『月刊ドリブ』を読んでみた。(2019年12月1日)終わり◆◆◆

以下は、メアド登録してくれた方だけ読めます(無料)。痴漢行為を注意されて追いかけられた元警視庁SPの男(2007年にも痴漢で逮捕歴あり)が、駅の階段で男性を突き飛ばし一時重体の大けがを負わせた事件(2020年2月に発生)の裁判傍聴記事です。

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