たまたまな日々・デモのネタのことなど

3月8日〜10日/国際女性デー/過激ダンスショー/R-1/レビュー更新
小川たまか 2024.03.11
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 ZII(ずっと家にいた)。

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3月8日〜10日

 3月8日は国際女性デー。TLはミモザであふれ、夜はウィメンズマーチ東京に行った人の動画や画像が流れてきた。

 ウィメンズマーチ東京、コロナ前は毎年取材していて、写真を撮りながら一緒に渋谷のあたりを歩くのが楽しかった。もうここ数年参加しておらず、そんな自分に若干の後ろめたさがあり、楽しそうでいいなあと思いつつ、でも私ここにいない……の気持ちで見守っていたのだが、複数の人が今年のマーチにトランスヘイターの男性2人がでっかいプラカを掲げて参加していた(明らかに嫌がらせ目的で)と報告しているのを見て、なんてこと……と思った。

 急いでコンビニへ行って段ボールをもらって、その人たちより大きいプラカを作って隠しながら歩いた人もいる、そのヘイターの人たちは他のデモにも来たことがある、などの情報を主にThreadsで知った。

 あとInstagramでマーチの後に4〜5人でお店に入っておしゃべりしているのを配信してくれてる方がいて、ちょっと入ってその雰囲気を味わった。

 私ですか? 私はミモザも買いに行かずずっと家にいた。ずっと家にいて、そこからスマホ越しに見る女性デーは華やかで楽しそうだった。 

 女性デーにちなむニュースがいろいろ流れてきて、たとえば、駅のトイレの便器数を調べてみたら男性の方が便器数が1.75倍多かった(東京新聞)とか、男女間の賃金格差の半分は偏見や習慣などの「説明できない格差」である(東京新聞)とか。いちいちふむふむって思うけれど、同時にネット上(主にX)でミソジニー脳の人たちがどんな反応をするのか瞬時に推測できてしまうし、そのアホみたいな反応が頭を駆け巡ってしまう。そんな自分が嫌だよ。

 駅のトイレで女性用トイレの便器数がだいぶ少ない(面積も女性用の方が狭いところもある)って知ったら、論理的な男女が考えることは「女性の方がトイレに時間がかかるから、女性用の方が広くて便器数も多くていいよね」のはず。でもミソジニーに頭を支配されてしまった人は「女性用にはパウダーコーナーがあるからでは?」とか「女も小便器でいいってことか?」とか言っちゃう。

 賃金格差については、ネット上で「弱者男性」を名乗る人たちは、なぜか女性の「上昇婚(自分より年収の高い男性と結婚すること)」に並々ならぬ憎悪を抱いていて、女は「下方婚(自分より年収の低い男性と結婚すること)」しろと言い続けている。

 1秒考えればわかることだと思うんですけど、男女に賃金格差があって男性の収入がほとんどの業種・職種で女性を上回っているのだから、そりゃ女性は望むと望まざると上昇婚になる確率の方が高いよ。女性の「下方婚」を増やすためには女性の賃金が向上するしかないのだが、彼らはそれは絶対に嫌らしい。ミソジニーは論理性の墓場だ。しかしなぜか彼らは「自分たちが論理的すぎるから女をロジハラで悩ませちゃってごめんねごめんねー(ニチャア」みたいなことも言ってる。気持ち……悪いです……。

 いやいや、世の中にはこんなミソジニストばかりではなく、理解ある素敵な人々もたくさんいるし、悪いとこばっか見て悲観的&卑屈になってはいけないと反省。

などと思っていたら、

 3月8日の産経新聞が例の記事を出した。

▼<独自>自民党青年局近畿ブロック会議後の会合で過激ダンスショー 口移しでチップ渡す姿も 費用は党が支出(2024年3月8日/産経新聞)

 自民党青年局近畿ブロック、キンモー☆

 ジェンダーギャップの現状を考えれば日本の国際女性デーにこれほどふさわしい記事もない。これが3月8日に報道されるところがジャパンの奇跡だよ。

 不謹慎とか破廉恥とかいうことじゃなくて、発想がホモソ。この界隈でまだ昭和は続いてるので、ドラマ「不謹慎にもほどがある」は昭和にタイムスリップするんじゃなくて、自民党青年局に間違って入っちゃった人、って設定で良かったんじゃないか。

ところで、

 こちらの会見の動画を見ました。

▼アイヌ民族への人権侵害・差別煽動に対する人権審判と救済申立に関する記者会見

 アイヌの伝統歌を歌う活動などをしているアーティストのマユンキキさんが、本間奈々氏のXでの投稿について法務局に人権審判と救済を申し立てたと。

 詳細は↓こちらの記事にもありますが、本間氏がマユンキキさんの顔写真や家族の名前を出して投稿を行い、その投稿が呼び水となってアイヌ民族やマユンキキさんに対する中傷や差別投稿が大量に連なったと。

▼「アイヌへの差別扇動」と主張、女性アーティストが「人権侵犯」被害申立て「認められなくても一歩踏み出す」(2024年3月8日/弁護士ドットコム)

 構造としては、杉田水脈氏が伊藤詩織さんに言及することで伊藤さんへのバッシングが加速したり、東京都中野区の吉田康一郎区議が行った投稿によって安田菜津紀さんへの差別投稿が大量に投稿された件などと同じ。

 問題は、政治家や元官僚の人がこうやって堂々と差別煽動することで、お墨付きを得たと感じる人が大量に発生することだと思います。

 本間氏のことは以前からひどい投稿が多いと思っていましたが(Colaboに対してもひどかったと記憶)、札幌市長選挙に2回出たことがある人なんですね。なんなんだよ、女性の政治家が増えてほしいと思ってはいるけれど、キミじゃない。

 会見の司会は彫刻家・評論家の小田原のどかさん、同席したのは伊藤詩織さんの「いいね」訴訟で高裁で逆転勝訴を勝ち取った佃克彦弁護士。

▼マユンキキさんのX投稿より

マユン
@marewrew_m
昨日の記者会見の動画です。やはり記事だけだと中身にバラつきもあるので、お時間のある方はこちらをご覧ください。

アイヌ民族への人権侵害・差別扇動に対する人権侵犯と救済申立に関する記者会見 youtu.be/dX5tIIHusgs?si… @YouTubeより
アイヌ民族への人権侵害・差別扇動に対する人権侵犯と救済申立に関する記者会見 【アイヌ民族へのSNSの差別的投稿をめぐる人権救済と救済申立について】「意見箱プロジェクト」・北海道と入植植民地主義を考 youtu.be
2024/03/08 22:31
204Retweet 328Likes

 そしてマユンキキさんといえば、MAREWREW(マレウレウ)の人だよ!

 ネトフリ呪怨のエンディングテーマ「Sonkayno」が私は好き過ぎて、『告発と呼ばれるものの周辺で』を書くときずっと聞いていて、『たまたま生まれてフィメール』の「祟りと滅び」という章で触れています。やっぱ、迫害された女の、土に埋めれた赤子の呪いを描くあのドラマのエンディングがアイヌ民謡だったというのは、私は意味があると思っている。

▼Sonkayno

そして、

 日曜日になって、前日に放送された「R-1グランプリ2024」の中で女性芸人の吉住さんが、デモ参加者をネタにして批判を浴びていることを知った。デモ参加者の女性が、プラカードとかトラメガを持ったまま婚約者の実家に挨拶に来て、その強引なノリを押し通すというネタ。

 とりあえずTverで見てみた。あんま気力がないので吉住さんのネタだけ見ようと思ったが、トップバッターの人のネタから面白かったので、結局全員のネタを見た。

 まず感想は、吉住さんのネタが一番笑えなかった。最初のネタも2つ目もどっちも。ファイナル行けなかった人が気の毒だし、ファイナルでも2票入ったのがちょっと理解できない。もちろん笑いのツボは人それぞれだし、私はお笑い評論家じゃないから私にはわからない凄さがあるんだろうけれど、当日のネタの出来ではなく、前評判とかこれまでの実績込みで順位決まっちゃてるんじゃないかと思った。

 私はアマチュアのどくさいスイッチ企画さんのネタが面白かった。構成がわかりやすくストーリーがあったし、他の芸人さんたちが凝ったセットと衣装を使う中で、小道具も何もなくしゃべり一本なのも良かった。

 あと、もしも国語辞書にコメント欄があったらというネタをやった寺田寛明さんも良かった。爆発力がなかったのがもう一歩惜しかった気もするが、知的要素があって良かったし、つかみの部分で「偏見言いますね、インスタで肉寿司の画像ばかりアップしている女性は……」って言って、その「偏見」が滑ったら炎上するぞ……という緊張が会場に生まれたところで、偏見を言わない、っていうのが良かった。時代の空気感をわかってる感じがした。

 トップバッターの真輝志さんのネタは、「〜〜これは私が○○になるまでの物語だ」っていう漫画とかのサクセスストーリーによくあるモノローグを使ったネタで、これも今っぽくって面白かった。

 吉住さんのネタはなんというか一番古い感じがした(他のネタをあまり知らないので他はそんなことないよって思うファンの人、ごめんなさい)。彼氏の前で過剰にデレたり、声のトーンを高くしたり、仕草がぶりっ子だったりぴょんぴょん飛んだり、女が「イタい女」をこういう風に演じれば評価される、という軸にまだ乗っかっているように見えてキツい。

 他の芸人さんのネタでも、女性を演じる時に体をくねくねさせたり、過剰に女言葉を使ったり、というのがあって、それまで面白くても、そこでスン……ってなってしまう瞬間があった。

 それからデモのネタに関しては、火炎瓶投げたり警察とやり合ったりするデモなんて今どきねーよ(むしろ警察に許可を取って、警察に誘導されながら行う)というツッコミはもう散々されているが、私はプラカードの「絶対に許さない」って文字が、ちょっとセンスに欠けると思った。デモのプラカードって全体的にもうちょっと癖が強いよ。

 自信満々に「私、意見を通すプロなんですよ」って言っちゃう女なのに、そのプラカードの主張の弱さは一体なにごとか。むしろ振り切って「アベ政治を許さない」プラカを出してくれたら地上波でそれを映し続けた人として称賛されたかもしれない。政治家の不正に抗議するデモだったようなので、「金満・世襲にNO!」ぐらいは書いてほしいよな。デモ参加者をイジるネタでも政権批判は出せない(「政治性」を消そうとする)中途半端さを残念に思う。

 最近のデモって音楽を鳴らしたりラップっぽかったりするし、警察にはおとなしく誘導されるし、スタンディング時に点字ブロック踏まないように注意を払うし、そういうのを入れてたら(&イジってたら)「あるある」で笑えたかもだけど、火炎瓶出して「意見を通すプロ」って言わせるのは対象に対する解像度の粗さだけが際立って無理だ。それならもうよど号ハイジャックとかあさま山荘まで言ってくれと思うし、今年のネタなんだから桐島聡も入れたら良かった。

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