たまたまレビュー#3『狼をさがして』

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『狼をさがして』（2020年／キム・ミレ監督）

▼映画『狼をさがして』予告編（YouTube）

　この日のトップニュースは、重要指名手配犯・桐島聡の確保。神奈川県鎌倉市の病院に偽名で入院していた男が名乗り出て、現在DNA型で鑑定中。特徴は似ており、本人しか供述し得ないことを話しているという。末期がんを患っていると。

　日本にそこそこ長く暮らしている人なら、この人の顔は一度ならず見覚えがあるだろう。駅や交番では必ずと言っていいほど写真が貼られているし、他の手配犯と違って笑顔。古めかしい写真だけれど、「自分の友人に似ている」と苦笑して言う人と何度か会ったことがあるし、なんなら私の昔の友人にも似ているし、その友人も自分で「似てる」と言っていた。大学の同じ学科に1人はいそうな顔。

　桐島聡は1974年に起こった連続企業爆破事件を起こした「東アジア反日武装戦線」（狼／大地の牙／さそり）の中の「さそり」メンバーだった。　　　

＜＜　以下、映画の予告編より引用。

＜東アジア反日武装戦線の連続企業爆破事件＞

1974年8月30日＜狼＞三菱重工業本社ビル爆破　死者8名、負傷者約380名

1974年10月14日＜大地の牙＞三井物産本社ビル爆破　負傷者17名

1974年12月10日＜大地の牙＞大成建設本社ビル爆破　負傷者9名

1974年12月23日＜さそり＞鹿島建設資材置き場爆破　負傷者なし

1975年2月28日＜三班合同＞間組本社ビル／同社大宮工場爆破　負傷者5名

1975年4月19日＜大地の牙＞韓国産業経済研究所爆は　負傷者なし

＜狼＞

大道寺将司　1975年逮捕　1987年死刑確定　2017年獄死

大道寺あや子　1975年逮捕　1977年超法規的措置により釈放

佐々木規夫　1975年逮捕　同年、超法規的措置により釈放

益永利明　1975年逮捕　確定死刑囚として東京拘置所に収監中

＜大地の牙＞

斎藤和　1975年逮捕時に服毒自殺

浴田由紀子　1975年逮捕　1977年超法規的措置により釈放　1995年再逮捕　2017年出所

＜さそり＞

黒川芳正　1975年逮捕　1987年無期懲役確定　無期囚として宮城刑務所に収監中

宇賀神寿一　1982年逮捕　2003年出所

桐島聡　現在も全国指名手配中　

引用終わり　＞＞

　メンバーの中で一人だけ一度も逮捕されず、映画公開時も「現在も全国指名手配中」だった桐島聡が、今回見つかった。

犯行声明

　三菱重工本社ビル爆破事件時に＜狼＞が出した犯行声明には「彼らは、日帝中枢に寄生し、植民地主義に参画し、植民地人民の血で肥え太る植民者である。」「“狼”は、日帝本国内、及び世界の反日帝闘争に起ち上がっている人民に依拠し、日帝の政治・経済の中枢部を徐々に侵食し、破壊する。」とあり、植民地支配を顧みることのない日本企業やそこから利益を得ようとする者への怒りや明確な攻撃の意志を示している。

　多くの人が顔は知っていても、何をしたかまでは知らない桐島聡。彼はアジアに進出する国内の有名企業に対して「海外資産を整理し、『発展途上国』に於ける資産は全て放棄せよ」と迫ったグループのメンバーだった。

　犯行後に逮捕されたメンバーらは一般人を巻き込んだことを謝罪しているが、日本の植民地支配に無自覚な一般の人々に対しても訴えたい気持ちがあったことは確かなのだろう。

　2021年春の公開時、なぜか3回見に行った。