たまたまレビュー#50 『シンプル・アクシデント/偶然』

人は復讐を選ぶのか
小川たまか 2026.06.07
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今週の1本

▼『シンプル・アクシデント/偶然』

 2025年のカンヌ国際映画祭でパルムドーム受賞。

 ジャファール・パナヒ監督の映画制作はそれ自体が闘いと言える。2009年に国家に対する抗議活動で死亡した若者の追悼式に出席した後に逮捕され、2010年に映画制作禁止などの処分を受けた。しかし2011年には『これは映画ではない』を制作し、カンヌ国際映画祭でプレミア上映。

 その後も何度か拘束・収監を受けながらも次々と作品を撮影してきたが、本作発表後の2025年12月、イラン裁判所から懲役1年と2年間の渡航禁止、政治団体・社会団体への参加禁止を言い渡された。

日常と地続きの弾圧

 ワヒドはかつてデモに参加して投獄された過去を持つ。獄中での拷問は過酷で、今もなおトラウマに苦しんでいる。ある日、ワヒドは偶然、自分を拷問した男・エグバルを見つける。我を忘れてその男を拉致し、砂漠に埋めようとするワヒド。しかし男は人違いだと訴える。

 ワヒドは困惑する。獄中では目隠しをされていたため、顔を見てもわからない。手がかりは一つだけ、その男が義足で足を引きずっていたことだ。

 ワヒドはこの男が本物のエグバルかを確かめるために、かつての仲間を訪ねる。ワヒドを止めようとするサラルが紹介したのは、記者で現在は写真家のシヴァ。そこから数珠つなぎに、結婚式を挙げようとしているゴリ、その夫のアリ、シヴァの友人で短気なハミドが、拉致した「エグバル(?)」とともに車に同乗することになる。

 同乗者が増えても結局、男がエグバルだという確証は得られない。

 テーマは深刻であり、イランやパナヒ監督の現状を考えてもシビアである。しかし映画の紹介に「ユーモアとスリルに満ちた、社会派サスペンスの最高峰」とある通り、怒り、混乱、葛藤に満ちた彼らのやり取りはどこか「滑稽」である。ドタバタコメディ……とまでは言わないが、パナヒ監督は、車がエンストしてみんなで車を押す場面や、ガソリンスタンドの店員やビルの警備員からたびたび法外なチップを要求される様子を、どこかユーモラスに撮っている。

 残酷に、恐ろしく撮ろうと思えばいくらでもそうできるところを、そのようにしていない。このことが、この映画を「どこか遠い異国の話」ではなく、同じ日常に生きる人間の普遍的な話とすることに成功させているように見える。

 とはいえ私は、劇場で見て隣に座った年配のご夫婦の女性の方がところどころで声を上げて笑っているのを聞いて「なんでこの場面で笑えんねん」と思った。正直に言えばちょっとイラッともしたのだけれども、映画の見方は人それぞれであり、彼女が笑っているのはもしかしたら監督の意図通りかもしれないと思い直した。

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