たまたまレビュー#58 『3670』

2026年に見た映画で一番良かったかもしれない
小川たまか 2026.11.03
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あらすじ

 脱北者のチョルジュン(チョ・ユヒョン)はソウルで脱北者の仲間たちと共に暮らしている。コンビニでアルバイトをしながら勉強し、大学への進学を考える毎日だ。彼は仲間たちに、自分がゲイであることを伝えてはいない。ワンナイトを過ごした相手から「ゲイの友達を作れ」と言われたチョルジュンは、出会いを求め、ゲイコミュニティのパーティーに足を運ぶようになる。そこで出会った人懐っこいヨンジュン(キム・ヒョンモク)や、イケメンのヒョンテク(チョ・デヒ)との交流を通して、チョルジュンは少しずつ変わり始める。

「僕らの映画」が描く、誰にとっても懐かしい感情

 脱北者コミュニティの中ではゲイであることを明かせず、ゲイコミュニティの中に脱北者はいない。どちらのコミュニティでもチョルジュンはマイノリティである。さみしさは常に彼の横顔につきまとうけれども、悲嘆しているわけではない。

 寡黙なチョルジュンは、陽気なゲイの仲間たちに気後れしてしまうことがある。けれど周囲からの親切やアドバイスを素直に受け止め、自分を変えようとする。

 一方、パーティーで出会うヨンジュンは誰とでも仲が良い明るい性格だけれど、背が低い自分のことをモテないと思っている。チョルジュンをイケメンだと褒め、「北はイケメンが多いの?」「君が標準なら多いよね」と聞く。チョルジュンは「指導者の顔、あれだよ?」と、北朝鮮ギャグで返す。ゲイコミュニティの中で次第に人気を得ていくチョルジュンを、眩しそうにヨンジュンは見つめる。

 パンフレットではゲイライターの後藤純一さんが「やっと出会えた、心の底から『僕らの映画だ』と思える作品」「ずっとずっと、こういう映画が観たかった。生きててよかった」という手放しの賛辞を送っている。

 私はこういうタイプの映画は初めて観たと思った。性的マイノリティがフィクションに登場するとき、性的マイノリティではない人たちのコミュニティの中にひとりだけいるマイノリティ当事者であることが多い。

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