たまたまレビュー#56 映画『ファーストボイス』

社会問題とエンタメ、105分の融合
小川たまか 2026.10.04
サポートメンバー限定

 日本初のセクハラ裁判が提訴されたのは1989(平成元)年のこと。福岡の出版社が舞台だった。私はこの裁判のことを知らない人に話すとき、たまにこういう言い方をする。

「セクハラに遭ったから裁判を起こした、というだけではないんですよ。性的な噂を流されるセクハラを経営側に直訴したら解雇されたから、それが不当だと言って訴えた裁判なんです」

 「セクハラ裁判」と聞いたら、行為そのものに対する訴えだと思う人が多いのではないだろうか。私はそう思っていた。現実はさらに理不尽だった。

 この出来事を映画にしたのが10月2日から公開されている『ファーストボイス』だ。

 主演の綾瀬はるかは嫌いではないし、セクハラ裁判は私の取材領域である。でも初めてこの映画の宣伝を見たとき「これはお呼びじゃないな」と思った。

 あんまりにもメジャー感が強くて、「どうせフェミニズム要素は周到に抜き取られているのだろう」と思ったからである。「どうせあたいみたいな日陰のフェミの応援は不要、むしろ邪魔だと思われているだろう」と卑屈をこじらせたのもある。嫌われフェミの一生はこんな感じですよ。

 ただどっちにしろ、裁判の映画は好きなので見ておこうと思っていた。また、試写で見た女性たちの評価が意外に高い様子なのでそれも気になった。前評判を聞くに、私のように不安に思っていた女性たちが「出来が良くて安心した!」と思っている様子。

 実際にフェミが見てみた感想を以下にまとめます。

▼映画『ファーストボイス』公式サイト

***

【目次】

(1)上映時間105分の勝利

(2)昭和の小ネタいいよね

(3)どこまで事実?

(4)運動が一枚岩ではないこと

(5)80年代の仕事と家庭の両立

(6)裁判シーンについて

(7)松本穂香もウィカもいいよ

(8)私が選ぶベスト脇役賞は裁判長の酒向芳

(1)上映時間105分の勝利

 チケット購入時に上映時間が105分と知って、これはいいなと思った。私は90〜100分程度の映画が好き。その長さだと損した気分にならないし、この尺の映画は外れが少ないような気もしている。

 『ファーストボイス』も冒頭からテンポが良い。さくさくっと時代背景や原告女性が受けた性的嫌がらせの内容が描写され、無駄がない。終わりまでずっと無駄がない。

 セクハラとその裁判という内容は、重苦しく描ければいくらでもそうなる。120分の映画にすることもできたと思う。しかし重たくすれば客が離れる。だからといってコメディにすることもできない。この難しいバランスを、105分という尺とテンポがうまく成立させていると感じた。

 あとはやっぱり原告弁護団の主任を演じる綾瀬はるかの存在感ですね。太陽みたいである。希望。希望の具現化はフィクションの使命。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、3839文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら